かつての魚庭(なにわ)の海を 再生させ、もう一度元気な海を取り戻したい。RISTEX が研究開発・実装を行うプロジェクト「漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生」

国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター RISTEX(以下、RISTEX)は、社会の具体的な問題の解決を通して、新しい社会的・公共的価値および経済的価値の創出を創り出すことを目指しています。

社会技術の研究開発をするにあたり、研究者と社会の問題解決に取り組む「関与者」(ステークホルダー)が協働するためのネットワーク構築を支援し、自然科学だけでなく人文・社会科学の知識をも活用した研究開発等に取り組んでいます。

社会技術とは、「自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して新たな社会システムを構築していくための技術」であり、社会を直接の対象とし、社会において現在存在しあるいは将来起きることが予想される問題の解決を目指す技術のことです。

そのRISTEXが研究開発・支援をする取り組みのひとつとして、「豊かで生活に密着した存在であった大阪湾を取り戻すため、多世代が集う漁村コミュニティを創出することによって、かつての魚庭(なにわ)の海を再生することを目的とする」というプロジェクトがあります。本プログラムにて取り組んできた内容についてのメディア向けの説明会が先月オンラインにて開催されましたので、ご紹介します。

■RISTEXが重視すること
① 社会の具体的な問題を解決するための取り組みである(例:少子高齢化、環境・エネルギー、安全安心、医療・福祉等)
② 従来の個別分野では対応しきれない問題に対し、人文・社会科学、自然科学にわたる科学的知見を用いて、方法論の構築・現場における実践を行い、現状を変えていこうとする、分野横断型の取り組みである
(例:少子高齢化に対応した経済・社会・環境・エネルギー等を両立させた地域の戦略的ダウンサイジングモデル等)
③研究者だけでなく、現場の状況・問題に詳しいさまざまな立場の「関与者」と連携し、具体的な現場における社会実験を行い、PDCAサイクルを徹底し、問題解決に役立つ新しい成果を作り出す取り組みである(例:「関与者」として自治体、企業、学校、NPO、市民等の参画)
④研究開発から得られる具体的な成果を、社会に還元し、実用化(実装)することを強く意識した研究開発
である(例:社会の問題を解決するための新たなソリューションモデル(社会システム)の地域社会への適応)

漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生

研究代表者:大阪府立大学 大塚耕司
実施者:大阪府立大学,太平洋セメント㈱,NPO大阪湾沿岸域環境創造研究センター
実施地域:大阪府阪南市,大阪市

講義:大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授 大塚耕司氏

大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授 大塚耕司氏

プロジェクト概要:近年、大阪の湾西部や南部でむしろ栄養が減り過ぎ、ノリの色落ちなど漁業への影響が出ている傾向にあります。

このプロジェクトでは、漁場環境の改善、鮮度保持技術の向上、新しい流通システムの開発、魚食文化の再生などに総合的に取り組み、多世代が集う漁村コミュニティを創出することによって、かつての魚庭(なにわ)の海を再生することを目的とする。

” 魚庭(なにわ)海を核とした,漁業と魚食を取り巻くモノ・ヒト・カネが域内循環する大阪湾沿岸域 “


このプロジェクトでは、かつて魚庭(なにわ)と呼ばれ、豊かで生活に密着した存在であった大阪湾を取り戻すため、大阪の阪南市をモデル地区として、魚あらのリサイクル材を用いた漁場環境改善、情報技術を使った新しい水産流通手法の開発、子ども向けの魚食普及イベント開催、地魚を使った新しいレシピ開発など生産・漁獲・流通・消費という一連のプロセスを総合的にプロデュースし、それらを環境面・経済面・社会面から包括的に評価して政策提言に結びつけることを目的としています。

●4つのグループに分かれて活動

①生産・漁獲グループ(栄養骨材を用いた漁礁の実海域実験,イイダコの伝統漁法の体験型イベント etc.)

②流通グループ(先週の水産流通実態調査,魚の鮮度保持実証実験,地魚と旬を紹介するデジタルカタログ製作,小口顧客へのインターネット販売(サイバーマルシェ) etc.

③消費グループ(他府県の取り組み事例調査,魚食普及と環境学習を組み合わせた体験型イベント,多世代による協働型新レシピ開発 etc.

④評価グループ(環境面・経済面・社会面の包括的評価指標開発,評価結果を基にした政策提言)

上記4つのサブグループを設置し、各グループからがプロジェクトにおけるそれぞれの位置付けを常に把握しつつ活動し、実験を進めてきました。

大阪湾の夏季における全窒素/全リンの分布:

大阪湾はその昔魚庭(なにわ)の海と言われるほど豊かで生活に密着した存在でしたが、高度経済成長時代には、大規模な埋め立てによる浅場の喪失、工場排水や家庭排水の急増による栄養過多などにより、赤潮が頻発する「死の海」のイメージが定着してしまいました。

しかし近年では、湾奥部では相変わらず赤潮が発生するなど過栄養状態でであるものの、長年の排水規制などで湾西部や南部の栄養塩レベルはかなり低下し、栄養塩レベルが湾奥部(北東部)で高く、湾口部(南西部)で低い「栄養塩の偏在」が起きています。

そのため湾口部では栄養不足によるノリの色落ちや、漁獲量の減少などが発生している現状に。

しかし近年は、湾奥部では相変わらず赤潮が発生するなど過栄養状態であるものの、長年の排水規制などで湾西部や南部の栄養塩レベルはかなり低下し、ノリの色落ちや漁獲量の減少が顕著に現れるようになり、「栄養レベル」が低下しているという課題が大きな問題となっています。

詳しく見ていきましょう。

水産業にとっては、大阪湾に対する負のイメージによる大阪湾産水産物の消費量低下も大きな課題であり、この背景にある青少年世代の「魚離れ」にみられる魚食文化の衰退と、低価格輸入品の参入という流通の問題も無視することはできません。

さらに漁業の大きな問題として、古い漁業形態(採捕に限定された個人経営など)からの未脱却と、漁業に対する3K(きつい、きたない、危険)イメージによる後継者難が挙げられます。

大阪府の漁業者の数は、1998年以降減り続けています。その要因として漁獲量の減少に加え、海外産の安い魚の流通
による魚価の低迷、漁業者の高齢化や後継者不足など、さまざまな要因が考えられます。


このような課題を克服し、大阪湾を美しく豊かな「魚庭(なにわ)の海」に再生させるためには、漁場環境の改善や、適正な価格で販売できる流通システムの構築、大阪湾産魚介類の魅力を子供たちに伝えることなど、多面的な取組みが必要となります。

取り組みの一部紹介

●魚庭(なにわ)の海再生プロジェクト

大阪府立大学は、太平洋セメント株式会社、NPO法人大阪湾沿岸域環境創造研究センターと共同で、(国研)科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)が進める「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域プロジェクトの一つとして、「漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生」を2016年10月からスタートさせました(2020年3月まで)。

大阪府立大学、太平洋セメント㈱、NPO法人大阪湾沿岸域環境創造研究センターは、阪南市と共同で、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)が進める「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域プロジェクトの一つとして、「漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生」を2016年10月から2020年3月ま
で実施しました。

このプロジェクトでは、持続可能な漁業や魚食文化が生み出される社会を支えるためのさまざまな取組みを総合的にプロデュースし、魅力ある次世代型漁業と魚食文化の創出を前提とした多世代漁村コミュニティの構築を目指しました。

漁場環境を改善するための取組み

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栄養骨材を用いた漁礁の実海域実験や、栄養骨材の効果検証、実際にタコが棲み家として使うか?のタコツボマンション設置実験、タコツボマンションの効果検証。

栄養骨材を用いた漁礁の実海域実験では、栄養骨材の効果を把握するため、西鳥取漁港沖にすでに設置されてあった漁礁に栄養骨材ユニット(約9kgの栄養骨材を30cm×30cm×10cmの籠に充填させたもの)を取り付け、比較骨材(木屑玉に魚アラ汁を染み込ませていないもの)ユニットを取り付けた漁礁との生物付着状況や魚の寄り具合を比較し
ました。

その結果、栄養骨材ユニットに付着した生物の個体数、栄養骨材ユニットに寄ってくる魚の個体数ともに、比較骨材ユニットに比べて1.2倍程度になることが確かめられました。

このことから、栄養骨材ユニットの設置は、魚介類の餌となる小さな生物を増やし、好漁場を生み出す効果があるということが実証できました。

たこつぼマンションの効果検証では、重労働のタコツボ漁は現在ほとんど行われておらず、籠漁に代わっています。使われなくなったタコツボを利用して、タコの棲み処(タコツボマンション)を作るイベントを2017年8月に行いました。

栄養骨材ユニットを取り付けた漁礁の近くにタコツボマンションを設置したところ、タコの生息、産卵が確認されました。

地魚の付加価値を上げるための取組み

阪南産魚介類(サワラなど)の鮮度評価実験、阪南産魚介類を使った料理の販売(現代版魚行商)などを実施。

魚の鮮度を評価する指標の一つに、K値(アデノシン三リン酸の分解度合いを表したもの)という指標があります。漁獲直後からの値を測定するため、西鳥取漁港にある小屋の一角に実験スペースを設け、魚種による違い、季節による違い、保存方法の違いなどについて調べました。

また、キッチンカーを大阪市中央卸売市場に持ち込み、阪南産魚介類を使ったさまざまな料理の販売(現代版魚行商)も行いました。

地魚を適正価格で流通させるための取組み

情報技術を生かした地魚の通信販売(サイバーマルシェ)を試行。

「マルシェ」はフランス語で「市場」を表します。阪南市の老舗仲卸業者にインターネットで直接発注することによって、鮮度の良い旬の地魚を購入できるシステム「サイバーマルシェ」の開発を試みました。

2回試験運用を行い、1回目は各家庭への宅配パターン、2回目は仲卸業者の店まで取りに来てもらうパターンを試
しましたが、運送コストの問題や目利きのプロと対話できることなどから、取りに来てもらうほうが好評でした。

インターネットで鮮魚を購入できるサイトは他にもありますが、ここで開発したサイバーマルシェの特徴は、購入できる魚介類の生態や旬などの情報を紹介する「デジタルカタログ」や、プロジェクトの一環として行っているイベントで開発された新レシピの紹介サイトにリンクさせているところです。これらの情報を得ることによって購買意欲が増すことがアンケートの結果からわかりました。

海の環境や魚食に関心を持ってもらうための取組み

ストーリー型イベントの開催

環境教育を合わせた、魚食文化普及のためのさまざまなイベントを開催。

アカガイの殻を使った仕掛けを用いる、イイダコの伝統漁の体験イベントを実施しました。もちろんイイダコの試食も行いました。

また、ワカメ養殖の体験を通して、海藻による海中の栄養や二酸化炭素の吸収・循環の効果を学ぶイベント「みんなでワカメを育てよう」を実施しました。

さらに、海のゆりかごと呼ばれるアマモ場を再生する活動を、地元の小学生と協力して実施しました。

この他にも、西鳥取漁協の漁師さんに水田および養殖ノリを提供してもらい、海と陸との栄養の循環を体感・学習する、年間を通じたストーリー型体験イベント「海と陸とのつながりを味わおう!」を実施しました。

開催されたイベントでは、参加者の方々に生産から加工、消費までの一連過程を体験していただきました。
栄養の循環や地域の生活に根ざした持続可能な環境保全のあり方を考え、伝えていきます。

まとめ

魚を引き寄せる小石状の栄養供給骨材に利用するための魚あらのリサイクル、子どもが憧れるような漁師像の創出・提示、地魚を使ったメニューの開発などを多世代共創で実施することに加えて、情報技術を使った流通システムの確立と鮮度保持技術の開発・普及を行う。

これにより、地域に根差した漁業と魚食文化の再生を目指していきます。

魚介類の豊富な海であったことから、大阪湾は魚庭の海と呼ばれていましたが、経済成長により、漁獲量が減少し、日本の水産業自体も、持続的な存在が危ぶまれている現状があります。漁場改善はもちろんですが、「生産者」「流通」「消費者」それぞれのパートが協力し、水産業を盛り上げていくことが今後の改善に繋がっていきます。


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