
世界最大の化粧品会社ロレアルグループ(本社:パリ)の日本法人である日本ロレアル株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:ジェローム・ブリュア)は、2020年度第15回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞者4名を選出しました。
日本ロレアル株式会社は、ジェンダー平等の推進を課題としています。
現在、女性研究者の割合、世界で29%、日本においては未だ16.6%女性研究者の活躍推進は未だ課題があり、世界における研究者のうち女性の割合はわずか29%、学術研究機関で上席の職位に就いている女性は11%に留まり、女性ノーベル賞受賞者は3%に留まります。
日本の女性研究者の数は、15万5,000人。年々増加傾向にはあるものの、研究者全体に占める割合は未だ 16.6%と世界平均に及んでいない状況です。
■ ロレアルグループ“世界は科学を必要としており、科学は女性を必要としている”という信念のもと、女性科学者を支援ロレアルグループはフランス人化学者ユージンヌ・シュエレールにより1909年に創立されて以来、科学に基づく製品研究・開発を事業の中核に据えてきました。
この創業以来の理念に基づき、“世界は科学を必要としており、科学は女性を必要として いる”という信念のもと、世界規模で女性科学者を支援しています。
1988年には、科学の発展に寄与した優れた女性科学者を顕彰する「ロレアル – ユネスコ女性科学賞」(仏・ロレアル本社主催)を創設。毎年、世界五大陸から5名の女性科学者を選出しています。過去受賞者のうち、2名がノーベル賞を受賞しました。
日本からの歴代受賞者数は6名で、2019年には日本を代表する化学者である川合 眞紀 自然科学研究機構分子科学研究所所長 (東京大学名誉教授・日本化学会会長)が受賞されました。
本社主催と並行して、日本ロレアルにおいては国内の若手女性科学者の支援・研究活動の奨励を目的に、2005年に日本ユネスコ国内委員会との協力のもと「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を創設。今年で15周年を迎える本賞の昨年までの受賞者は、55名です。
2019年度に物質科学で受賞された渡部花奈子さん(東北大学大学院 工学研究科 化学工学専攻 助教)が、「Forbes 30 Under 30 Asia list – Class of 2020」の「Healthcare & Science」部門に選出されるなど、歴代受賞者はその研究内容において国内外で高く評価され、また研究生活と並行して結婚・出産、次世代の育成など、多様なキャリアを切り拓いています。
本年度の受賞者は下記のとおりです。
●「物質科学」分野
小野寺 桃子 おのでら ももこ(26歳) さん 東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 町田研究室 受賞理由:グラフェンを用いたテラヘルツ発光・光検出素子の実現と素子品質の向上に貢献。
藤代 有絵子 ふじしろ ゆかこ(27歳) さん 東京大学大学院 工学科研究科 物理工学専攻 十倉研究室 受賞理由:電子スピン構造のトポロジー制御により、次世代の省エネルギー型磁気メモリデバイスの基盤構築に貢献。
●「生命科学」分野
坂上 沙央里 さかうえ さおり(33歳) さん 2020 年4 月~大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝統計学 助教 受賞理由:大規模ヒトゲノム解析により、日本人集団のゲノムの多様性を明らかにし、またヒトの健康寿命・病気リスクに関連するバイオマーカーの特定に貢献。
高垣 菜式 たかがき なつね(28歳) さん 2020 年4 月~ 甲南大学大学院 自然科学研究科(甲南大学大学院 自然科学研究科 生命・機能科学専攻卒) 受賞理由:温度を感じる新たな受容体を発見し、生物の温度感知メカニズムの解明に貢献。
「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、物質科学または生命科学の2分野における博士後期課程に在籍または、 同課程に進学予定の女性科学者を対象としており、各分野からそれぞれ 2 名 (計 4 名)を毎年選出しています。受賞者には、奨学金100万円が贈られます。
応募に関するお問い合わせ先:「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」事務局 EMAIL: fwis-japanfellowships@loreal.com
2020 年度 第 15 回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」―物質科学分野
“科学とは技術”
・小野寺 桃子 おのでら ももこさん(26歳)

出 身 地: 宮城県柴田郡川崎町
所属大学: 東京大学大学院・工学系研究科・マテリアル工学専攻・町田研究室
研究分野: 二次元材料
受賞歴・論文掲載など:
【受賞歴】
・第 58 回 フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム 若手奨励賞(2020)
・第 58 回フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム Nanoscale Horizons 賞 (2020)
・国際会議Compound Semiconductor Week2019, Best Student Paper Award
(2019). ・11th annual Recent Progress in Graphene and Two-dimensional Materials
Research Conference, Young Scientist Prize( 2019).
【論文掲載】
・M. Onodera, et al., Nano Letters 20, 4566-4572 (2020) 他7 件
■表彰までの道のり・・・幼少期のゲーマー生活から一転、かっこよくて楽しそうな科学者に
幼いころは起きている時間のほとんどをゲームに費やすゲーマー生活で、勉強はほとんどしておらず、ゲームを突き詰めすぎて、小学5年生のとき急にゲームに飽き、「こんなことをしているくらいなら勉強をした方が良い」と悟り、なんとなく科学者ってかっこいいな、楽しそうだなと漠然と思っている程度からスタートしました。
■大きな困難や課題・・・成果が出ない研究と向き合い“とりあえずやってみる精神”で解決
修士1年生から最近まで成果と言えるものが全く無かったことがストレスで、無力感を感じたことが多々ありました。
博士課程に進んでから、テーマの内容にこだわらず面白そうだと思ったものはとりあえずやってみるというスタンスで、複数のテーマに並行して取り組んだ結果、休日も毎日研究室に通い、1年間で筆頭著者論文を8本も出すことができました。
■キャリアを築く過程でのメンターの必要性・・・悩んだ時期に個性を認めてくれた指導教授
博士に進学する際は博士課程全否定の人も多く、不安になっていた時期があったものの、指導教授に「小野寺さんは自分の直観で今までうまく進めていたのだから、それでいいんだ」ということを言われ、“なんとなくの自分の感覚”を認めてくれたことで、自分がよいとおもうことをやればいいんだと元気づけられました。
ロールモデルという意味でも、指導教授のようにたくさん仕事をこなし講演もたくさんし、アクティブに楽しく活動できる研究者になりたいと考えています。
■日本国内で女性科学者を増やすために求めること・・・ポジティブイメージを発信
研究者の生活にネガティブなイメージを抱いている人が多いと感じており、社会が女性研究者をいかに必要としているか、そして今女性研究者になるといかに恵まれた環境を与えられるか等のポジティブな広報を展開することが重要です。
女性研究者に対する支援策の具体的な説明、女性研究者として社会で活躍している人のインタビューや、実際どのような生活を送っているのかという情報をポジティブな形で女学生に知ってもらう機会があるとよいです。
■女性科学者が日本で活躍するための課題・・・育児出産の両立環境づくりと金銭面
女性科学者にとって課題となるのは育児出産との両立。
研究者として今後キャリアを築いていく上で、金銭的な面の不安の払しょくをしたい。
• 日本では女性研究者が少ないので、女性であるということだけで他の人に覚えてもらいやすいというメリットもあり、日本で女性研究者を目指すなら今がチャンスではないかと思います。
●社会と研究の接点

グラフェンを用いたテラヘルツ発光・光検出素子の実現と素子品質の向上に貢献
●研究内容(タイトル:三層グラフェンにおけるサイクロトロン共鳴吸収の電界制御と基板材料となる六方晶窒化ホウ素の品質評価)

「グラフェン」は炭素原子がハチの巣状に六角形に連なった平面構造をとっており、その厚みはわずか 1 原子分しかない極薄の「二次元材料」です。
優れた電気・熱伝導性といった数々の特徴をもつことから、「スーパーマテリアル」として近年世界で注目され、研究が盛んにおこなわれています。特に光学的な面では、グラフェンはテラヘルツ帯の発光・光検出素子としての応用が期待されています。
今回私はグラフェンが 3 層重なった「三層グラフェン」の光応答を調べ、三層グラフェンを用いれば外部電場によってテラヘルツ帯の吸収波長を変化させられることを実証しました。
これを用いれば将来的にはグラフェンを用いた波長可変型のテラヘルツ発光・光検出素子が実現できる可能性があります。
さらにグラフェン素子の品質を向上させるためには、グラフェンの基板として用いられている六方晶窒化ホウ素(h-BN)という材料の品質評価が欠かせません。
そこで私は複数種類の h-BN 結晶を用いてグラフェン素子を作製し、h-BN 基板が隣接するグラフェンに与える影響を評価しました。
これらの成果は二次元材料研究の基礎・応用両面にとって重要な意義を持つものと自負しています。
“科学とは、予想外の驚きに満ちた大冒険”
・藤代 有絵子 ふじしろ ゆかこさん(27歳)

出 身 地: 山梨県甲府市
所 属: 東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 十倉研究室
日本学術振興会特別研究員(DC1)
研究分野: 固体物理学、
受賞歴・論文掲載:
【受賞歴】
・東京大学 総長賞 (2018)
・東京大学 工学系研究科長賞 (研究最優秀) (2018)
・東京大学 田中昭二賞(物理工学優秀修士論文賞) (2018)
・東京大学 工学部長賞 (2016)
・東京大学 物理工学科 優秀卒業論文賞 (2016)
他 国内学会受賞 2件、国際学会受賞 5件
【論文掲載等】
・Y. Fujishiro et al., Appl. Phys Lett. 116, 090501(2020) (レビュー論文)
・Y. Fujishiro et al., Nat. Commun. 10, 1059 (2019) ・Y. Fujishiro et al., Nat. Commun. 9, 408 (2018) 他 2件
■表彰までの道のり・・・大学教員の両親をみて自然と興味を持った科学に没頭
両親ともに大学教員であり、職業としての科学者はとても身近な存在でした。
小学校1年生の時に両親に買ってもらった宇宙の図鑑がきっかけで科学に興味を持ち、家で楽しそうに研究や論文の話をし、世界中の学会に参加する両親の姿を見て、早く自分も大きくなって仲間に入りたい、という気持ちを抱いていました。
■女性科学者としての抱負・・・100年後の人類の生活を変える発見を目指す
将来は以下3点を意識していきたいです。
- 物性物理学の研究者として100年後の人類の生活を変えるような発見がしたい。
- 次の世代の人材育成に、少しでも貢献できるような研究者になりたい。
- 高い目標をもって挑戦する気持ちの大切さを、次の世代の女性研究者たちに伝えていきたい。
■研究者として最も大きな困難や課題・・・生活の全てをかけて研究に没頭した論文執筆
体は限界の中、少しずつ研究の全体像が明らかになっていく楽しさに支えられ、発表直前の中性子回折実験で予想外の発見があり、良い形で修士論文をまとめることができました。
生活の全てを捧げて何かに打ち込む経験ができたのは、今となっては良い思い出ですし、離れていても常に自分のことを気にかけてくれる家族の存在は大きな支えになりました。
■日本国内で女性科学者を増やすために求めること・・・“在宅”など働き方の多様性を
女性科学者を増やすことで、働き方は多様化し、さまざまな働き方を許容する価値観を社会全体で形成していくことができます。
例えば、在宅でできる仕事はなるべく持ち帰ることで、男女問わず家事・育児と仕事が両立しやすくなります。
また、他の研究室や海外に行ける雰囲気作りを進めていくことで、男女問わず産休・育休を取りやすい環境を作ることができると考えます。
■科学者が日本で活躍するには・・・博士号の地位とイメージの向上が必要
日本で科学者が少ないのは、博士号の価値があまり広く認識されていないこと、および科学者が経済的・地位的に不安定な職業というイメージが強いことの、2点が要因だと考えます。
海外では博士号を持っていたほうが様々な職業でより良い地位に就くことができる一方、日本では博士号を優遇する企業が非常に少ないのが現状です。
博士号を取っても定職に就けないポスドクが話題になっていますし、博士号取得・研究職に対する社会全体のマイナスのイメージを改善していくことが必要です。
●社会と研究の接点

電子スピン構造のトポロジー制御により、次世代の省エネルギー型磁気メモリデバイスの基盤構築に貢献
●研究内容(タイトル: 磁気構造の「トポロジー」制御がもたらす多彩な電子機能を解明)

「トポロジー」は、何らかの形に連続変形を行っても変わらない量に着目する数学の概念のことで、近年の物性物理学において大きな注目を浴びています。
その代表例が、多数の電子スピンによって織り成されるナノスケールの渦状の構造に関する研究です。
これらは「トポロジー」によって守られた安定な粒子として振る舞うことから、次世代の情報ビットへの応用が期待されているだけでなく、固体中の電子と結合することで、従来の電磁気学からは予想できないような現象を生み出すため、基礎物理の観点からも盛んに研究が行われてきました。
本研究では、磁気構造の新たな自由度である「トポロジー」を、様々な手法を用いて制御することで、新たな電子機能やトポロジカル磁気構造の発見に成功しました。
例えば、ヘッジホッグとよばれる強固なトポロジカル磁気構造体に強い磁場をかけて破壊すると、大きな磁気揺らぎが発生しますが、これを利用して固体中における熱と電気の変換効率を上げることに成功しました。
また、化学組成を制御し、実効的な化学圧力を固体中に生み出すことで、スキルミオンとよばれる全く別のトポロジカル磁気構造へと移り変わる過程を詳細に調べた結果、途中の組成において、当時世界で最も高密度となる、新たなトポロジカル磁気構造を発見しました。
これらの研究結果によって、磁気構造の「トポロジー」が変わる相境界も、面白い物理現象の舞台であることが分かり、次世代の高集積磁気メモリデバイスへの応用に向けた重要な基盤を提供することができました。
2020 年度 第 15 回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」―生命科学分野
“科学とは、わくわくする心”
・坂上 沙央里 さかうえ さおりさん(33歳)

出 身 地: 神奈川県横浜市
出身大学: 東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻 (研究室:大阪大学大学院
医学系研究科遺伝統計学にて委託研究)
現 所属: 2020年4月~ 大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学 助教
研究分野: 遺伝統計学・ゲノム情報科学
受賞歴・論文掲載:
【受賞歴】
・東京大学総長賞 (2020)
・アメリカ人類遺伝学会(ASHG)Charles J. Epstein Trainee Award for Excellence
in Human Genetics Research Finalist (2019)
・アメリカ人類遺伝学会(ASHG)Charles J. Epstein Trainee Award for Excellence
in Human Genetics Research Semifinalist (2018)
【論文掲載】
・Nature Medicine (2020) ・Nature Communications (2020) 他3 本
■表彰までの道のり・・・医師生活から一転研究者生活に変貌を遂げて掴んだ受賞
幼少期から生き物の観察や、図鑑を読むことが好きで、両親に「なんで?どうして?」とよく質問する子供でした。
医師の仕事も充実していたものの、以下4点が特に魅力的で研究者として生きていこうと決意しました。
- 博士課程大学院に入ると自分の自由な思考を活かせること
- 興味をどこまでも追求できること
- 自分が夢中になった研究結果を世界中の研究者に文章やプレゼンテーションで伝えることができること
- 関心を持ってもらえること
■研究に至った経緯・・・医師としての経験から新たな問題解決に挑む
医師として働く中で、治療の有無に関わらず自然に治った病気や、ベストを尽くしても全く治療が奏功しない病気があることや、現在歴史的に一つの病気としてくくられているグループの中にも、明らかに少し異なる病態の存在が推測されることから、『私達の生まれ持った遺伝的変異と、外的要因の組み合わせの正体を解明できれば』と思い、研究に励みました。
医師として感じていた疑問である、ゲノムだけではなくその他の生物学的な多層の情報をより詳細に解析することで、これまでにはなかったゲノム医科学に基づく「病気」そのものの再分類や、その知見に基づいた適切な医療が実現できるのではないかと期待しています。
■今後サイエンス分野に貢献できること・・・のびのびと研究できる環境づくり
周りの研究者がほぼ全員男性だったため、これまで女性としての貢献や女性としてのやりがい、というようなことをあまり考えずに済みました。
今後、下の世代の女性科学者がのびのびと研究できるような環境作りに貢献したいです。
■女性科学者が日本で活躍するための課題・・・意思決定層の女性の少なさ
研究環境や組織的な意思決定層に、日本では女性が極めて少ないため、幼い頃からの無意識的な性別による役割分担の刷り込みが依然として残っているのではと思います。
今後は女性が研究を長く続けられるような環境づくり、そして意思決定層に女性が増えるような仕組みが重要と考えます。
●社会と研究の接点
大規模ヒトゲノム解析により、日本人集団のゲノムの多様性を明らかにし、またヒトの健康寿命・病気リスクに関連するバイオマーカーの特定に貢献
●研究内容(タイトル:大規模ゲノム情報を疾患基盤の解明・臨床応用に役立てるための新規解析手法の開発と国際共同研究の遂行)

全ての生き物の細胞の設計図であるゲノムは、ATCG のたった 4 種類の塩基の並びで構成されています。ヒトゲノムは 30 億の塩基の並びからできており、アフリカで誕生した最初の現生人類から変化を繰り返しながら受け継がれてきました。
2001 年に「ヒトゲノム計画」が終了し、歴史上はじめてヒトの全遺伝情報が解読されました。この 20 年でゲノムの解析にかかるコストが劇的に低下し、どの部分に遺伝的変異があると疾患の発症と関連するか、数百万人規模で網羅的に調べることが可能となりました。
ゲノムが人間の設計図なら、ゲノムの解析が終わればあらゆる病気の発症が予測でき病態も解明されるようにも思われましたが、実際にはまだかなり道半ばです。
ゲノム研究を本当に病気の理解と治療に役立てるための大きな課題として、生まれついてのゲノム情報が複雑な疾患を形作るまでのメカニズムが不明であること、そしてゲノム情報を臨床現場での診療に役立てる方法論が確立されていないことが挙げられます。

私は大学院での研究を通して、ゲノム解析を用いた健康長寿バイオマーカーの発見(NatureMedicine 2020; 図1)、機械学習という新しい解析手法を用いた日本人のゲノム多様性の解明と、ゲノムによる病気のリスク予測に与える影響の評価(Nature Communications 2020; 図2)、ゲノム情報と実験生物学の情報との統合解析を行う解析手法の開発(Nucleic Acids Research 2018)、ゲノム解析を活用したドラッグ・リポジショニングに関するソフトウェアの開発(Bioinformatics 2019)など多岐に渡る研究を行いました。
これらは、これまでのゲノム研究の成果を、より生物学的な理解・臨床現場での活用に近づける世界的に見ても独創性の高い研究成果と考えています。
“科学とは、予想をはるかに 飛び越えるものに出会える、
未知に満ちた世界”
・高垣 菜式 たかがき なつねさん(28歳)

■表彰までの道のり・・・学費や周囲からの偏見等様々なことに悩んだ末、勝ち取った自信
他の人とは少しずれたところに関心を持っており、次第に自分自身でなぜそのような言動をしたのか観察するようになったことから、今思えば最初の研究対象は自分でした。
小学生の頃は動物や植物が好きなだけで、高校生になり、光合成の原理などを教わった時に、生き物の面白さを知りました。
女性研究者のワークライフバランスや周囲からの偏見に悩みながら研究を続けて来ましたが、受賞したことで自分の研究と自分自身にこれまで以上に自信を持つことができました
■科学者を志した動機・・・「やりたい方」を選び続けた結果の研究職という仕事
大学院生の頃、博士課程に進むか、就職するのかという大きな決断を迫られたとき、後悔するのは「博士課程に進まないこと」だったため後悔しない方を選ぼうと思い今の自分があります。
「やりたい方を選ぶ」を続けてきた結果、自然と科学者を志すようになりました。
■日本国内で科学者を増やすために国に求めること・・・給付型の奨学金サポート
博士後期課程で給料をいただいたり、毎月研究奨励金をいただいていたものの、計6年間分の奨学金を返済しており、生活するだけでもお金はかかってしまっているのが現状です。
貸与制ではなく給付型での奨学金など、経済面でのサポートは性別関係なく科学者を目指す学生の後押しになります。
■女性科学者が日本で活躍するための課題・・・無意識の偏見と出産・育児との両立問題
① 科学者は男性の職業、という無意識の偏見
② 結婚・出産・育児などの女性のライフイベントと研究を両立できるのかという不安
この2点が日本で女性科学者が少ない一番の原因だと考えます。
周りの理解不足・偏見は科学者を目指す女子学生の不安を強めてしまう要因となります。(祖母に女性で博士課程に進学することを理解してもらえなかった辛い経験があります)
企業のように組織が女性支援体制を構築するのではなく、研究室をまとめる教授個人の女性研究者への理解度によって、女性のライフイベントと研究を両立できるかが決まってしまう現状は、科学者を目指す女性にとって大きな不安となります。
今後は、そういった不安を取り除く仕組みを構築していくことが必要だと考えます。
例えば、奈良先端科学技術大学院大学では学内に一時託児施設が設けられるなど様々な支援がおこなわれており、感銘を受けました。こういった取り組みが当然になることが必要だと思います。
●社会と研究の接点:温度を感じる新たな受容体を発見し、生物の温度感知メカニズムの解明に貢献
●研究内容(タイトル: メカノ受容体DEG による動物個体の低温耐性の制御)

地球上には匂いや光、物理刺激など様々な環境情報がありますが、中でも温度は遮断することのできない重要な環境情報です。ヒトを含む動物は、温度に応答し、その変化に適応しながら生存しています。
本研究では、生物にとって重要な温度適応メカニズムを解明すべく、線虫C. エレガンスを用いて研究を行っています。
線虫C. エレガンスは959個の体細胞から構成されるシンプルな動物ですが、人間と類似した遺伝子を多く持っている非常に優れたモデル動物です。

変異体を用いた解析から、接触刺激などを受容する DEG/ENaC型のメカノ受容体が温度を受容し、C. エレガンスの低温に対する耐性メカニズムに関わっていることがわかりました。
さらに、ヒトの DEG/ENaC 型メカノ受容体も温度に反応することがわかりました。そのため、ヒトの DEG/ENaC の研究を進めることで、ヒトの温度耐性メカニズムの解明に繋がることが期待されます。
また、DEG/ENaCは温度そのものを感知する可能性と、温度変化による膜の変化を感知する可能性が考えられます。そのため、膜の柔らかさを変化させた人工膜を用いた解析などをおこなうことで、温度感知メカニズム解明に貢献することが期待されます。

■ロレアルグループについて (https://www.loreal.com/)■
仏・ロレアルは、100 年以上にわたって美に捧げてきました。36の多様で国際的で独自なブランドポートフォリオを有し、2019 年のグループの売上高は298.7 億ユーロ、社員数は 88,000 人です。
世界有数の化粧品会社であるロレアルは、マス市場か ら百貨店、調剤薬局、ドラッグストア、美容院、トラベルリテールや旗艦店、E コマースなど、あらゆる流通チャネルで展開しています。
4,100 名の研究員を有し、研究開発をグループ戦略の基幹に置き、世界中の人々の美への熱望を叶えるために日々 活動しています。研究員のうち、女性が占める割合は 70%に上ります。
■日本ロレアルについて (http://www.nihon-loreal.jp/)■
1963 年から事業を開始し、1996 年に日本法人である日本ロレアル株式会社が設立されました。2019 年時点で 2,670 人の従業員を有し、18のブランドを取り扱い、化粧品の輸入、製造、販売、マーケティングを行っています。
1983 年に日本に研究開 発拠点を置き、現在、日本ロレアルリサーチ&イノベーションセンター(川崎市・溝の口)として、日本をはじめ、アジアの研究 開発の中心的な役割を担っています。200名以上の研究者を有し、うち女性研究者は56%を占めています。
2005 年から生命・物質科学分野における博士後期課程在籍または進学予定の若手女性科学者を支援する奨学金 「ロレアル-ユネスコ女 性科学者 日本奨励賞」を推進しており、2019 年を含め、55 名の若手女性科学者が受賞しています。
■ユネスコについて (https://en.unesco.org/) ■
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、諸国民の教育、科学及び文化の協力と交流を通じた国際平和と人類の共通の 福祉の促進を目的とした国際連合の専門機関です。
本部はフランス・パリにあり、2014 年 4 月現在の加盟国数は195カ国です。
科学においては、技術、イノベーションや教育の発展に注力しているほか、海洋資源や生物多様性の保全、科学的知識 に基づく気候変動や自然災害への対応策に取り組んでいます。とりわけ研究において、あらゆる人種差別の撤廃と男女共同 参画を推進しています。
■日本ユネスコ国内委員会について (http://www.mext.go.jp/unesco/index.htm) ■
日本では「ユネスコ活動に関する法律」に基づき、文部科学省に置かれる特別の機関として日本ユネスコ国内委員会が設置されています。
日本ユネスコ国内委員会は、教育、科学、文化等の各分野を代表する60 名以内の委員で構成され、我が国におけるユネスコ活動の基本方針の策定、ユネスコ活動に関する助言、企画、連絡及び調査等を行っています。
日本ユネスコ 国内委員会事務局は文部科学省に置かれ、文部科学省国際統括官が日本ユネスコ国内委員会事務総長を務めています。